らなる堂

音楽

2020映画まとめ

Filmarksに書いてあること以上のことはたぶん書いてないです。記憶が風化してるので。

filmarks.com

 

レ・ミゼラブル

ユゴーとはほぼ関係ないんでしょうねえ...理不尽の向かう先が結局声もあげられない子供たちへと向かい、そしてその子供たちからの反駁の炎が大人たちに襲いかかるというある意味ではスカッとするような話ではありましたが、やっぱりラストが納得いかないですねえ...僕はあのラストは「逃げ」だと思います。不条理な社会情勢を映すなら最後の不条理だって描かなければならなかったんじゃないかなあと。

 

・デット・ドント・ダイ

やっちまったなあ〜(クールポコ)。ゾンビへの資本主義の投影なんてだいぶ使い古された話だろうし、かといって正直にロメロ作品へのオマージュなんてするわけでもなく。僕としてはオフビートにゾンビと人間がだらだら共生して、たま〜にゾンビがガブっとしちゃってゾンビがまた増えちゃった〜あはははみたいな話を想定してたんですけどねえ...まあ監督の個人的な楽しみとか好みがぎっしり詰まったような作品です。この際チルダ・ウィンストンにはもっとやりたい放題やらしてあげてもよかったのではとか考えちゃいます。音楽は良いです。ジャームッシュのバンド(二人)の音楽がふんだんに盛り上げてくれます。この音もジャームッシュのギターノイズなんだろなあ...と思うと音楽マニア的には嬉しくなります。あとトム・ウェイツが元気そうでよかった。

 

ホドロフスキーのDUNE

70~80年代において荒唐無稽としか言いようのない一大プロジェクトがどのような顛末を迎え、そして後世に何を残してきたか...というのがテーマです。まあ〜とにかくホドロフスキー師匠の陽性エネルギーは半端ないですね。喋ってる姿見てるだけで元気が湧いてきます。そしてどれほどこのプロジェクトに身を尽くしてきたのかというその情熱もやはり半端ではない。伝説で終わった企画でも、黒歴史とせず肯定する強さは並の人間にはできないです。”デューン砂の惑星”という物語はありますが、ホドロフスキー監督の手が加わった時点でそれはもう「ホドロフスキーの」”デューン砂の惑星”という物語に変わってしまう、そういった意味でタイトルからしてすばらしい意図が込められていると思います。傑作ドキュメンタリー。

 

・ラッキー

小4でタナトフォビアを発症した僕にはうってつけの作品でした。もうすぐ来る死というものを意識しながらどのように人生を過ごせば良いのか、どのように見つめ直せばいいのだろうか。そういうことを哲学的な説教抜きで語りかけてくれる優しい映画です。この映画は理屈抜きで好きなシーン多いんですよ〜、デイヴィッド・リンチの亀への演説、Bonnie Prince Billyが歌う"I Saw a Darkness"をバックに寝床で打ちひしがれるラッキー、いつもの喫茶店で弁護士(会計士だったっけ?)と話し合うラッキー、ふとしたきっかけで参加した他所の誕生日パーティーで歌い上げるラッキー、そしてラストシーンなどなど...自分自身も死への付き合い方について改めて考え直すきっかけとなったりして、まあとにかく良い映画でした。

 

・リアリティのダンス

現代の技術がようやく監督の才能に追いついてきたことで描けた傑作であります。まるで歌のないミュージカルのように(おかんは歌いまくってましたけど)次々と押し寄せる展開。監督の自伝かとおもいきやいきなり監督のおとんにスポットライトが当たる衝撃のどんでん返し。擬物化・モチーフのユーモアあふれる多用も楽しいです。監督の過去である姿と現在の姿が交差する演出もすばらしい。こちらもラストシーンがなかなかウルっときました。本人の物語がいちばん面白いってもう反則ですよね。

 

ダウン・バイ・ロー、ミステリー・トレイン

あの最新作を見た後だったので、ジャームッシュ監督っていいなあって改めて確認させられました。ジャームッシュの初期・中期作品についてあのシーンが好きだった〜とかトム・ウェイツが良い味出してた〜のような個別を切り取るような見方でなしに批評するのはすんごく難しいです...ダウン・バイ・ローなんて俳優陣もあらゆるシーンも好きになってしまったのでとりわけ難しいです。なんとなく弛緩してて、緊張感が漂っても最後はなんとなく整合していくユルさがたまらんでした。パーマネント・バケーションも見ないとなあ。

 

・チェイサー

まあエグいのなんの。韓国映画の警察はだいたい無能揃いですがこの映画では輪をかけて無能です。主役のすぐ近くに凶悪犯が潜んでいるのに(なんならニアミスすらしてるのに)、そのことには観客にしか明かされないというもどかしさ。観客にはそのもどかしさを与えたまま、主役たちは犯人に追いつくこともできず幾度も悪が重ねられていくという見る方にとっても惨劇としか言えない映画です。マジでラストシーンと、特典の俳優さんの宣材写真撮影映像がなかったら吐いてたと思います。

 

バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)

菊地成孔先生イチオシということもあり見ました。とても良い映画でした。時代的に終わった特撮映画俳優が自分の殻を割り、本当のヒーローとなっていく...そんな陳腐な飾り文句の一言では言い尽くせない魅力に溢れています。ほとんどカットのない映像の中に幻想としての怪物が入り込んだり、サントラ(こちらも最高)に合わせてドラマーが出現したり、主人公が自分を見つめ直していくほどに現実と虚構が入り混じっていく展開に釘付けにされます。イニャリトゥ監督にはこれでハマりました。

 

・エレファント

 あぶらだこの歌詞に「象の上に乗って君らをみんな踏み潰してあげたい〜」っていうのがあるんですけど、それとはまるで無関係とは思えないです。コロンバインでの事件を題材にした有名な映画で僕もどのような展開になるのかだいたい知っていたものですから、まるでこの後にあんな惨劇に誰もが巻き込まれるとは思えないような複数の登場人物の視点からなる平和な日常のシークエンスが続くので、頼むからもう何もおこらないでくれ...と願うばかりでした。この世の不条理がもう少しばかり無くなって欲しいと思ってしょうがないです。

そういえば劇中でAcid Mothers Templeの音楽が使われてるんですけど、リーダーの河端一先生は許諾とった覚えがなくカンカンだそうです。はやいとこ和解してください。お願いですから。

 

オールド・ボーイ

前半は楽しいアクション映画だったのにいったいどうしてこうなった...というくらいこちらもエグいです。ホテルに閉じ込められて発狂しまくるチェ・ミンシク先生の怪演からしてエネルギーが半端ではありません。個人的にはもっとカナヅチ振り回してて欲しかったところですが、凡百のバイオレンス映画ではとても思いつかないレベルの報いが主役に待っているわけです。ちょっと催眠術すごすぎねえ!?って気もしなくもないですけど、あんな救いのない話よく思いつけるよなあと感心しちゃいました。

ただまあ一言言うなら、死んでしまったらそれでもう敗者なんですよ...どんなに叩きのめしてやっても。

 

・タクシー運転⼿ 〜約束は海を越えて〜

ソン・ガンホ最高。シリアスなシーンでもコミカルなシーンでもいつでもすばらしいです。ポスターからだとタクシー運転手が外国人を載せて現地の人々との交流していく様を描いた楽しい映画なのかな?と思わされますが、全然違います。背景には韓国の民主化運動があり、その抑圧による混乱や惨劇が最中において精一杯この惨状を世界に伝ええようとした人々の克明な生き様が描かれているのです。政権側の犬に見つかって逃走する中での赤い赤い空のシーケンスは絶望感たっぷりでした。

そしてやはりソン・ガンホ先生演ずる主人公の、自身の使命と家族の間で揺れ動く中での覚醒っぷりが目玉であります。コミカルでもシリアスな演技両方で魅力満載でもうずっと見てて痛いぐらい。

 

・BIUTIFUL

重たいです...末期癌を宣告された主人公が家族や仕事仲間に何かを遺そうとするもまるでその行動が全て裏目に出るかのように悪い事態へと転落していく。それは主人公の抱える家族の機能不全や街の貧困問題が歯車のように噛み合って生じるのです。他のレビュアーさんが書かれておられましたが、主人公に欠如しているのはBIUTIFULという綴りを正すことのできないような知性なのだと。死者と語りかける能力(もっと生かす場面があってもよかったのではと個人的には思いましたが)でもなく、物事を読む知性なのであると。しかしながら精一杯なにかを遺そうとし、善を施そうとする主人公の姿に対し僕は決してお前は愚かだなんて言うことはできません...間違いなく彼もこの世の不条理に巻き込まれた被害者なのですから。伝統性と前衛性の入り混じったサントラもすばらしいです。最後のささやかな贈り物だけが希望でした。

 

シェイプ・オブ・ウォーター

バイオショックみたいなスチームパンク的な雰囲気は最高でした。あと60年代ビックバンドジャズのサントラは最高でした。この辺の組み合わせはすばらしいとしか言えなかったんですが...なんとなく時代背景(冷戦直下あたり)を取り入れようとしてうまくいってない感じが引っかかりました。ここでわざわざ冷戦問題みたいなの入れてくる必要あんの?と疑問を懐かざるをえない要素が多かったです。あと悪役が小悪党すぎてがっかりしました。やることなすこと中途半端で...

 

親切なクムジャさん

まずオールドボーイで出演してた俳優さんが善悪サイド入れ替わって登場してる時点で笑えます。前半はクムジャさん出所のシーンからアクセル飛ばしまくりのコメディ劇です。まあとにかくクムジャさんかっけえ...って感じです。ソン・ガンホ先生まで友情出演しちゃって、いよいよチェ・ミンシク先生演ずる凶悪犯との対峙...というところでガラッと映画の雰囲気が変わります。ネタバレはしませんが、ここでの変わりようを受け入れられるかどうかがこの映画のキモでしょう。とにかく赦しなんて概念が存在しません。ラストシーンはなんだかわからないけどとりあえず心温まります。個人的にはオールドボーイバチバチの悪役やってたオ・ダルスさんのとぼけた演技にハマりました。コメンタリーも楽しいので是非。

 

エンドレス・ポエトリー

あんま覚えてない...いやとても良い映画ではあったのですが。あの監督が芸術家としてどのように自我を確立していったかと言う非常に重要な局面が描かれております。ドタバタ感は前作ほどでもないですが色彩は相変わらず豊かでとても楽しいです。個人的なベストシーンはやはり最後の父との別れでしょう。僕としてはこのシーンにこの映画のすべてが詰まってるんじゃないかと思うほどです。サンタ・サングレでは父に対する憎悪と思われるような姿を描写した監督が、ようやく赦しと別離への後悔をあらわにしたようでジーンときてしまいました。三作目も首を伸ばして待ってます...

 

ブルーベルベット

ポン・ジュノ監督が「母なる証明」でオマージュしたシーンが見れてよかったです。以上です。あーあとローラ・ダーンが若かった。

 

白いリボン

ハネケ監督の映画は前々から見たかったのですが、ファニー・ゲームは怖そうなのでこっちを見ました。いやあ〜悪意が煮詰められています。閉塞感漂う村が舞台なのでなおさら煮詰まり度が違います。父権的な習慣が生み出した不条理が生み出した悪意の暴走や弱者への暴力・迫害の循環。この映画の凶悪さは村の「外」という唯一の救いを一切描かないところにもあります。サタンタンゴ でもここまで凶悪じゃなかったぞ。

こちらのレビューがすばらしいので勝手にリンク載せさせていただきます。

abdora-nothing.blogspot.com

 

・息もできない

ぐわあああ...。こちらも相当エグい映画でしたよ。時代背景を知識として抑えておけばますますエグさが増す映画かもしれません。誰もが暴力の与える側・受ける側となり居場所がどこにもない登場人物たちが、他の人物とのつながりの中で居場所を見出していくのです。しかし、それは時には希望だけでなくまた新たな暴力の源流にも繋がってしまう。それでも主人公は暴力の中で傷ついた人々たちのつながりをつくり、希望を生み出したのでしょう、それだけがこの映画の救いです。最後にヒロインはその繋がりを広げることができるのか...

とにかく音楽も流れず淡々とリアルな暴力が描かれるので見てて辛いです。音楽によって感情を誘導されることがなくても心が揺さぶられます。韓国映画ってやっぱすごい。

 

・コントロール

みんなだいすきジョイ・ディヴィジョンの映画です。俳優さんたちが当時のメンバーとほぼそっくり。とくにイアン役の人は演技も憑依されたかのように圧倒的です。てんかんのシーンはそうとうキツかったです...サントラ的にはLove Will Tear Us Apart Againの使い方がうまかったですね。映画見た後しばらくジョイ・ディヴィジョンにハマりました。今はほとんど聞いてないです...

 

・悪魔を見た

どっちが悪魔なんだい!(中山きんに君)的な話なのかな?完全に主役がチェ・ミンシク先生の演技に食われてるとこが面白いです。ていうかまたミンシク先生がトンカチを凶器に使ってるじゃないですか。なんかこう、主役の生かさず殺さず的な復讐のやり方がハマるかハマらないか次第だと思います。最後の葛藤の演技だけはよかったです。

 

アンダーグラウンド 完全版

濃すぎてこんなん個別記事ものです。だけど個別記事書くためにまた5時間見るのもなかなか難しい...ので簡単に。まあとにかくテンションが高い。第1章と第2章は喜劇そのものです。地下に閉じ込められ、滑稽に祭りと武器製造を続ける人々の悲しいくらいのバカっぷりにも笑ってしまいます。だからこそ、第3章のユーゴスラビア解体後の世界にはそこはかとない悲痛さが襲いかかってきます。かつてあんなに仲の良かった登場人物たちのつながりが引き裂かれ、戦争の渦中で命を落としていくシーケンスはただただ辛い。でも最後にはまた喜びが待っています。ユーゴスラビアという国はまるであなたの心の中にあるんだよと言わんばかりの締め括り。泣けます。

 

・ハイ・ライフ

「極限状態における人間の性の葛藤」みたいなコピーに釣られドスケベな私は即ツタヤでレンタルしたのですが期待外れでした。ぜんぜん極限状態じゃねえじゃねえかよ!性の葛藤はどこいったんだよ!みたいな気持ちでいっぱいです、勝手に期待した私が悪いのに。インターステラー見た後になんとなく監督が描きたかった物がわかったようなわからなかったような。印象的なシーンは多かったんですけどね。あと頼むからミア・ゴスさんは良い加減もうちょっとマシな配役にしてあげてほしい。ニンフォマニアックでも汚れなシーンさせられてた上にこの映画でも微妙な立ち回りさせられてたのでもうかわいそうです。ミア・ゴスさん。

 

・牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件

サタンタンゴみて自信ついたからって長時間の大作映画ばっか見てんじゃねえよ感想書く身にもなってくれと自分にツッコミを入れているところです。

思春期の少年少女の心情と複雑な時代背景が交差するすばらしい映画でした。芳華-Youth-においても近いものがありましたが、こちらは時間をかけて少年少女の心情を丁寧に描写しているところがポイントです。まるでウエストサイドストーリーのような少年団の抗争は実際にあったんでしょうか。欧米文化が輸入され、近代化が進む過渡期の街の様子がよく映し出されていたのがなかなかにリアルでした。なぜ殺人事件は怒ってしまったのか?明確な答えは提示されません。4時間の映像を見終えた人だけがそれを余韻と共に「考える」ことができるのです。フフフ。まあ「少年の複雑な心情が彷徨った結果」と言ってしまえば終わりなんですけど

 

・バーニング 劇場版

原作となる村上春樹の短編はあっさりとしていますが、舞台を完全に韓国に移し、主役から漂うスノッブ感をばっさり消すなどだいぶ改変が行われた映画です。ですが根底にある不条理感は原作以上とも言えるでしょう。最後まで答えは明示されず、ラストシーンは本当に現実であったのか?という点も線引きがあいまいです。ビニールハウスとは何を表していたのか。原作のみならずフォークナーの「納屋を焼く」もヒントになるかもしれません。それは単純に大事にしていたものではなく、結果として不条理に巻き込まれた残骸を表してるのかもしれません...後に見たトニー滝谷よりも監督の独自性が大幅に練りこまれており、村上春樹映像作としてはいちばんの映画かもしれません(神の子供は皆踊るは未視聴)。ちなみにぼくは映画見た後に短編読みました...おはずかしい

 

ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ

ベニチオ・デル・トロは相変わらずカッコ良かったですが前作のギリギリ感を期待するとちょっと期待外れになっちゃうかも。

 

....えーあと今年は23作見たんですが、手と目が疲れてきたのでこの辺にします。

印象に残ったのはそのうち

・哀しき獣(キム・ユンソクさん強すぎ)

レヴェナント:蘇えりし者トム・ハーディとは気づかなかったその1、サントラもすばらしい)

ゴッドファーザー(私如きが何を言うことがありますでしょうか)

・芳華-Youth-(学校に通えなかった方がドラマティックというのは皮肉ではありますが美しかったです)

ダンケルクトム・ハーディとは気づかなかったその2、ノーラン先生すばらしい)

バートン・フィンク(最高の不条理ギャグ映画)

インターステラー(IMAXで見て良かった、ノーラン先生すばらしい)

・パラダイス 愛(島民がだんだんEDになってくみたいで面白かった)

・ハッピーエンド(これをブラックユーモア映画だと見ちゃいけないんでしょうけど僕はクズ人間なので終始笑いっぱなしでした)

・M★A★S★H マッシュ(有名なテーマソングに加えてBGMもトロピカル三部作期の細野晴臣がお手本にしたような曲ばかりで良い)

・TENET テネット(なんだかわかんなかったけどすごかった(小学生並みの感想))

・異端の鳥(悲惨なのに映像が美しい、でも変態多すぎて若干"えの素"感あり)

陽炎座(文学がそのまま映像になったらこうなるんだろうなあと圧巻しました)

・アリス(シュバンクマイエル監督作はもっと掘り下げていきたいですね)

みたいな感じです。

そのうち2020年度版でまとめようかな...来年はまとめ方変えたほうがいいでしょうね...

 

それでは皆さん良いお年を。